詩:困窮は鳴かない

困窮は鳴かない

都会の路地裏、暖をとりたくて、自動販売機と壁の隙間で静かに息絶える


困窮は鳴かない

階段の踊り場、不自然に立っている人に尋ねると、昼食抜きを誤魔化す為に踊っていると言った

「そうか、踊り場だもんね。」と辛うじて笑い合って、何かを一緒に守った

自らの食べられない苦しみより、それを悟る誰かの痛みを気にする優しい人が踊っていた


困窮は鳴かない

水を買うのも躊躇われるのにお茶やコーヒーを買った

何かを守りたかった


困窮は鳴かない

「健康の為に歩いてるんです!」

交通費がないから歩いて帰った

冬の陸橋は冷たくて、頬が赤く千切れそうだった

欄干に手向けられた花も震えているようだった


困窮は鳴かない

困窮は鳴けずに、背中が泣いていた

もしもほとんど手を振らずに歩いている人が居たら私だ

もしもついには吹き出してしまう人が居たら私だ

私は、あなただ


年老いてゆく父と母にざまあみろと唾を吐けたらどんなに良かったか

ふと目をやると、高架下を老夫婦が歩いている

互いの足腰の弱さを、不安定さを、間で転がす自転車にもたれ合うようにして歩を進めていた

私はいつか歳を取る

どこにでもゆける身体というのは、いつでも終えられるということである

どこにもゆけない身体というのは、いつでも終えられないことでもある

私はそのことが怖くて仕方がない

縋りつく生に、生かされる生に、恐怖を抱かざるを得ない

酒臭い息でチャリンコを転がす親父の隣を、パトロール中の警察官がすれ違う

一瞬怪訝そうな顔は、風景に流れてゆく

私も、誰も彼も流れ流れて

時間も風景も機会も人も流れ流れて

取り返しのつかぬ

取り返しのつかぬ

取り返しのつかぬこの街で、暖をとろうと必死だった

自販機の後ろに何か優しいものは落ちていなかったんだろうか

何も、優しいものは落ちていなかったんだろうか

その時に私は何をして過ごしていたんだろうか


派手に殴られたことはなかった

でも、今まさに階段から突き落とされていく女の軽さなら見ていた

紅潮する怒りが誰も彼も喰い殺すから、この世界の子どもたちはどこもかしこも怯えていた

真っ赤が真っ赤を生み出すから、世界はもう真っ赤っかだ

真っ赤っかだ

いつかの茜色、誓いも反省も忘れて、今目の前の君を殴り続けることに夢中だ

イマメノマエノ、キミヲナグリツヅケルコトニムチュウダ


鈍色の景色、重い身体、枕に預けた顔の痛み

どうにかなりそうだ

景色を変えなきゃ

景色を変えなきゃ

さもなくば私はここでずっと重く沈んでいるだけだ


鈍色の景色、重い身体、枕に預けた顔の痛み

どうにかなりそうだ

景色を変えなきゃ

景色を変えなきゃ


景色を変えなきゃ

景色を変えなきゃ


景色を変えなきゃ

景色を変えなきゃ

さもなくば私はあそこへずっと重く沈んでいくだけだ